実質コストにも表れない取引コストとは?ファンドマネージャーはこうしてトレードする

こんにちは。YUMAです。

少し前になりますが、楽天バンガードシリーズの初めての運用報告書が公開され、一部のブロガーから「実質コストが高い」といった声が出ました。

しかし、実際には表面コスト(信託報酬)はおろか実質コストを持ってしても、ファンドのコストが高いか低いかというのは議論が難しいものです。

今回は、ファンドマネージャーがどのようなトレードをしているのか?実質コストにも表れないような株式のトレードコストとは?について考察します。

ファンドマネージャーが行うトレードとは

ファンドマネージャーが取引するときのトリガーは概ね2パターンに分けられます。

  • 期待リターンが高い、もしくは低い銘柄を発見したので、銘柄のウェイト調整(リバランス)をしたい
  • ファンドへの資金の流出入に対応するためにキャッシュを作りたい、もしくはキャッシュを減らしたい

1つ目は自発的トリガーで主にアクティブマネージャーを、2つ目は受動的トリガーでアクティブとパッシブの両方を想定しています。

どちらのパターンにおいてもトレードは可能な限り迅速に行いたいところです。

上がる株も下がる株も出来るだけ早く仕込みたいですし、解約対応でキャッシュが必要なら期限までに必ず株を売ってお金を用立てなくてはなりませんからね。

この時、トレードの目的や特徴に応じて、ファンドマネージャーは取引形態を以下の2つから選択します。

エージェンシー取引

野村證券の解説によれば以下の通りです。

株式の売買方法のひとつで、証券会社が投資家から委託された注文を取引所に取り次いで売買を成立させる取引のこと。委託売買ともいわれる。

要は最もシンプルな取引形態です。

A社の株、100株の買い発注を出したらブローカー(証券会社)はそれを市場に出すだけです。個人投資家の取引とほぼ同じです。

エージェントであるブローカーを通して市場に発注が届くのでこう呼ばれます。

この時のブローカーコストは売買代金に対して一律でxx%とか、これも個人投資家の取引コストと同じ課金のされ方だと思ってください。もちろん、水準はまた別の話です。

プリンシパル(バスケット)取引

同じく野村證券による解説です。

株式の売買方法のひとつで、取引所を通さずに投資家と証券会社が相対で行う取引のこと。相対売買ともいわれる。
投資家が一度に大量の注文を執行する際に、マーケットインパクトを極力抑えながら短期間で注文できるなどの利点がある。

エージェンシー取引と比べると少し複雑ですね。

取引所を通さない相対取引というのがポイントです。

例えば、TOPIXに連動するインデックスファンドにいきなり1000億円の資金流入が起きたとしましょう。ファンドマネージャーは1000億円もの大金をキャッシュで寝かす訳にはいかない(トラッキングエラーが大きくなる)ので、速やかに1000億円分の株を買いたいところ。

しかも、基準価額に合わせて大引けで買い付けるのが適切です。なぜ大引けが適切か分からなければ以下をご覧ください。

しかし、1000億円もの発注を15時ちょうどに一気に出すべきか?もう少し市場にインパクトを与えないように、目立たずに執行できないかな?

ここで有用なのがプリンシパル取引(≒バスケット取引)です。

プリンシパル取引では、複数のブローカーと交渉して最良条件の相手と取引所を通さずに案件を約定します。「1000億円のうちの発注、大引けで受けてくれる人は手挙げて!レート出して!」「はい、じゃあ一番レートの安かったxx証券と約定ね」こんな感じです。

こうして決まった案件は取引所には出ませんので、他の取引参加者にはリアルタイムではバレません(あとでバレるけど)。

コスト(手数料)は売買代金のxx%という課金のされ方をします。ただし、このコストがいくらなのかは投資家には分かりません。

コストについては後述します。

案件や状況で使い分ける

エージェンシー取引とプリンシパル取引は適切に使い分けられるべきものです。

例えば、アクティブマネージャーがある銘柄を分析して「この銘柄は今から5%上がるまでは買いだ!」と考えたとき、エージェンシー取引ならば値動きを見ながら安くなったところでちょこちょこ買いを拾ったりできます。もし、5%上がってしまったら買いを止めればいいし、マネージャーの意思決定とトレードがリンクしやすいです。

一方で、大量の注文を大引けなどの特定の条件で執行したいときにはプリンシパル取引が向いています。まとめ買いやまとめ売りだとブローカーは安いレートで受けてくれるからです。また、市場に与えるインパクトが小さくなります。

なぜ、プリンシパル取引だと市場へのインパクトが小さくなるのか?

ブローカーである証券会社は余計な株の在庫を出来るだけ保有したくありません。可能な限り早く捌いて手数料で利益を得るフロー型のビジネスだからです。

そこで、案件の買いと売りが出来るだけキャンセルするような案件をたくさん集めてきて、そこでぶつけてしまうのです。こうすれば市場に出して板を動かすことなく両者の執行を取引所の外でこなすことができます。

探してくる相手は、別の運用会社かも知れないし、同じ証券会社の中の自己勘定トレーダーかもしれません。

こういった意味で、優秀なブローカーとは名前の通り多数のトレード案件を仲介してくれる証券会社なのです。

ブローカーが提示する引受レートは案件の難易度に依存する

プリンシパル取引で複数のブローカーと引き合うとき、ブローカーが提示する引き合いのレートを「リスクプライス」と呼ぶことがあります。

理由は、発注案件をポートフォリオと見たときの取引執行の容易性、つまりリスクを考慮してレートがつけられるからです。

例えば、発注案件の中身が小型株や流動性の低い銘柄ばかりであれば、ブローカーも相手方を探すのが難しいし自己で保有するのもリスキーです。あとは業種が偏っていたりとか、何らかのリスク特性に偏りがあるときは、引き合いレート、つまり手数料率を高く提示してきます。

反対に、案件が大型株ばかりだとレートは低くなります。捌くのが簡単だからです。TOPIXに近いポートフォリオや日経平均銘柄だとかなり捌くのが楽です。先物とのアービトラージにも利用できるからです。

こう考えると、TOPIX連動や日経平均連動のインデックスファンドの引き合いレートは低くなることが分かります。

一方で、特定業種に連動するインデックスファンドやアクティブファンドなどは相対的に高い引き合いレートとなりやすいです。

見えるコストと見えないコスト

ここが面白いところです。

運用報告書でファンドの実質コストを見ると、「委託手数料」というあたかも取引手数料かのような項目が出てきます。しかし、これはあくまで表示の問題です。

上で述べたエージェンシー取引のコスト(手数料)だけがここに表示されます。プリンシパル(≒バスケット)取引の場合の手数料は含まれません。

プリンシパル取引の場合の手数料は案件の約定価格に反映させることになっているのです。

例えば、A銘柄について「10株・終値・買い」の条件でプリンシパル取引をしたいとします。複数ブローカーと引き合った結果、最良条件が0.1%でした。この日のA銘柄の終値が500円。このとき、この注文は500円×10株=5,000円の案件となり、そこに手数料0.1%である5円が上乗せされるなら、5,000 + 5 = 5,005円を支払えばよいと思うでしょうが、実際は少し違います。

約定価格に0.1%の手数料を乗せるのです。つまり、銘柄Aの終値は誰がどう見ても500円であるにも関わらず、約定は500.5円でなされたということにするのです。トータルで支払う金額は5,005円なのですが、見え方としては約定値段が不利になって、それとは別に手数料は発生していないような形になるのです。

なんでこのようなルールなのかは分かりません。事務作業を減らすための昔からの慣習なのでしょうかね。

まとめ

ファンドマネージャーがどのようなトレードをしているのかを考察しました。

結論としては、

インデックスファンドはほとんどがプリンシパル取引でトレードされるため、実質コストを比較してもあまり意味はない

ということです。正直言って、インデックスファンド間で0.01%レベルのコスト比較をして、「コスト最安はこのファンドだ!」みたいな議論は不毛だと思います。

ただ、一言申しあげておけば、TOPIX連動や日経平均連動のような日本のメジャーなインデックスに連動するインデックスファンドであれば、プリンシパル取引の引き合いレート(手数料)は非常に小さいです。

今回は日本株を想定した議論でしたが、外国株だとこの議論のほかにカストディ(受託銀行)の保管費用というのが影響してきます。ファンドの純資産が大きくない場合は、これも結構大きく影響してきます。

このあたりはまたいずれ記事にしたいと思います。

それではまた。