米国IT企業CEOの報酬と議決権問題から見えてくる微かな矛盾

こんにちは。YUMAです。

先日発行されたヴェリタスの記事を見ていたところ、面白い記事がありました。

世界トップIT企業におけるCEOと社員の報酬格差が何倍あるか?という話です。

ヴェリタス記事紹介:米国IT企業のCEOと社員の報酬比率

ヴェリタスの記事によれば、Google(社名はアルファベット)の従業員の平均給与は年20万ドル(約2200万円)であるのに対して、CEOであるラリー・ペイジ氏の報酬はたったの1ドル!倍率にしてCEO報酬が従業員の19万分の1です。ただし、同氏はアルファベット株を430億ドル相当保有しているとのこと。。。

結局、このレベルになると年間の報酬とかどうでもよくなってくるんでしょうね(笑)

フェイスブックの場合、従業員平均が24万430ドルの年間報酬に対して、ザッカーバーグCEOは37倍!ただし、この中には警護費用890万ドルが含まれているのでそれが影響しているそうです。このレベルになるといつ命を狙われてもおかしくないですから、セキュリティに890万ドルは全然高くないんでしょう(笑)

ネットフリックスの場合は、CEOが従業員の133倍。

 

日本企業の場合はどうなんでしょうか?

東京経済オンラインにデータがまとまっていました。

これによればトップはLINEで、平均役員報酬が従業員平均の165倍で約12億円です。これもすごいですね。

米国における議決権種類株の台頭

さて、話は少し変わりますが、米国IT企業といえば、「議決権種類株」の発行が少しずつ増えてきており、議論を呼んでいます。

議決権種類株とは、議決権の与える数に偏りを持たせた種類株(クラス分けした株、優先株などに近い)です。通常は1株につき1つの議決権を与えるところを、「クラスC株には議決権を10倍付けます」「クラスA株には議決権なし」といった感じで、株価の上げ下げという経済的な権利は同じですが、議決権数に格差を持たせます。

こうすることで、創業者やCEOファミリーが議決権の多い株を保有し、一般投資家には議決権の少ない株を保有してもらう、ということが可能になるのです。

これが、米国、特にIT企業を中心に発行が増えてきています。例えば、Google(社名はアルファベット)は議決権のある株とない株を両方発行しており上場していますし、フェイスブックやVISAも同じです。この他にも、長期保有によって議決権が増えたりだとか、クラスA株全体で議決権の60%を付与させるだとか、細かい工夫がなされた種類株がいくつか上場しています。

また、SNS企業のSnapは、2017年にはじめて議決権がない株式をNYSEに上場させました。

議決権種類株は何が狙い?

なぜ、このような議決権種類株の発行、すなわち議決権を薄めた株式を発行するかというと答えはシンプルです。

創業者やCEOファミリーが経営の支配権を維持したまま資金調達したいからです。

特にテック企業などは、創業者の独自のセンスで一気に事業を拡大させてきたりした経緯がありますから、口うるさい株主なんかにごちゃごちゃ言われたら上手くいくビジネスも難しくなってしまいます。

そういう意味では、議決権の薄い株を投資家には保有してもらい、金銭的リターンを享受させて満足させ黙っててもらう。一方で、経営の支配は創業者やCEOファミリーが引き続き行うという狙いは合理的に見えます。

株主としての不平等は問題

金銭的リターンがあれば満足かというとそうではありませんね。

スチュワードシップ・コードという言葉があります。そもそも機関投資家は、運用資産の成長という目的を果たすと同時に、運用会社とともに投資先企業に株主としてより良い提案(議決権行使)をしていくことも求められています。金銭リターンだけではなく議決権も重要です。

また、コーポレートガバナンス・コードの観点もあります。一部の経営陣だけの判断で企業経営が支配されてしまうと、そのうち腐敗してしまうのではないか、市場からのモニタリング機能が効かなくなってしまうのではないかという声も当然あるでしょう。

モノ言う株主として知られるアクティビスト系のヘッジファンドなどは、種類株なんか発行されたら収益機会を取り上げられてしまったことに等しいです。

そういう意味で、「会社は誰のモノか?」という問いに直接かかわってくる問題であり、1票の格差は物議を醸します。

テック企業の企業理念との違和感

ザッカーバーグ氏の持ち株の寄付の話は有名です。

大変に殊勝な精神をお持ちで素晴らしいと思います。

しかし、違和感はあります。

そもそも、SNSはどんな人でも自由に意見を発信することができて世の中と繋がれる、という民主主義の理念がスタートだったはずです。Googleもまた、利用者からお金は取らない広告モデルによって、情報格差をなくす、知らないをなくすという役割を担ってきました。

そのような企業が結局、経営のステージに立つと「自分たちで支配したい」という考え方に変わってしまうというのは何とも言えない矛盾がありますね。

単なる違和感であって「こうあるべき」という意見は私にはありませんが、SECは引き続き問題意識を持っていますし、大手のインデックス算出会社も議決権の軽重を考慮するルールを追加しようとしているようです。

将来的に問題が表面化して投資家の金銭リターンにも影響する局面が来るかもしれませんね。

それではまた。