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投信の販売会社を比較する金融庁の共通KPIの問題点。これでボーナスが決まるとしたらあなたはどうする?
こんにちは。YUMAです。
本日の日経ヴェリタスで「投資信託に投資している個人投資家の半数が損失状態」というニュースに関してQUICK資産運用研究所の北澤氏の意見が紹介されています。
背景にあるのは、金融庁が投信の販売会社を評価するべく、6月末に共通KPI(成果指標)なるものを示したことです。同時に、29の銀行へ開示を求め現状を公開したニュースが大きく取り上げられました。
このニュースの背景には様々な意見があります。以下の記事に詳しい説明があります。
私から見てもこの共通KPIには問題があります。
仮にこの共通KPIをインセンティブに設定されたら投信のセールスはどんな行動をとるでしょうか?
共通KPIとは?
まず、金融庁の打ち出した共通KPIとは以下の3つです。
- 運用損益別の顧客比率
- 残高上位20銘柄のコスト・リターン分布(5年年率)
- リスク・リターン分布(5年年率)
ファンドマネージャーという立場から見ればどれも酷い指標なのですが、このうち最も波紋を呼んでいるのは1の損益別の顧客比率です。要は、販売会社ごとに「うちのお客様のうちxx%は損失状態ですが〇〇%は含み益状態ですよ」というのを公開するものです。
指摘されている問題点
「損益別の顧客比率」という指標には、いくつかの問題点がすでに指摘されています。
例えば、この指標は残高があるポジションのみが計算対象であり、利益を確定するために残高を全売却したポジションは考慮されません。したがって、「この投信はめちゃくちゃ上がったから全部売って、こっちの損失の出ている投信を買い増そう」となったとき、この投資家は損失ポジションとしてカウントされるのです。
通常、利益が出ているポジションほど早めに手じまいやすく、損失の出ているポジションほど継続保有する投資家が多いですから、このような「損益別の顧客比率」などという指標を使うと自然と損失が多いかのようにバイアスがかかって見えます。
また、投資を始めた時期にも大きく左右されます。国内・海外ともにここ数年の株式市場は力強い相場が続いてます。もっと言えば、リーマンショック後に株式投信を買った人の多くは現在含み益でしょう。
一括投資をしている人か積立投資をしている人かによっても結果は大きく左右されます。
とにかく実態を正確に表さずに、「投資家の半数が損失状態」などと報道されようものなら、これから資産運用を始めてみようかと思っている個人投資家のなかには躊躇してしまう人もいるのではないかと心配になります。
営業マンにどんな行動バイアスがかかるか?
思考実験をしてみましょう。
「顧客別の損益比率」といった指標で成果が評価され、ボーナスが100%決まるような販売会社や営業マンが存在した場合、彼らはどのようなアクションをとるでしょうか?
販売会社や営業マンとしては、顧客の多くが利益を出しているように見せて、自社は優良な販売会社だとアピールしたいわけです。そのためには、損失を出している顧客(ポジション)を少なくし、利益の出ている顧客(ポジション)を多くしたいでしょう。
なので、サンプリングされる期末(今回の場合なら2018/3末で29の銀行が指標を算出した)に向けて、営業マンは損失が出ているポジションを売ってしまうように顧客に促すでしょう。顧客が損しても期末にポジションさえなければ計算対象にはならないからです。反対に、含み益の出ているポジションはそのまま売らずに残すように促すでしょう。投資をしたことがある人ならこれが如何に愚かな投資行動か分かると思います。
また、株式投信の勧誘をするタイミングを計るかもしれません。「これから株は上がりそうだな」というタイミングでは株式投信を勧め、先行き見通しが悪いときには債券の投資信託を勧めるかもしれません。つまり、営業マンとしては独自の相場観を持って商品提案することにフォーカスしてしまうのです。なんせ期末で顧客に利益を出してもらっていれば自分のボーナスも増えるのですから。
以上は極端な思考実験ではありますが、このように物事の一部しか切り取ることのできないKPIを設定した場合、その数値を良く見せようとあらゆる策を練るのが販売会社です。インセンティブがあるのですから当然です。
下手なKPIを設定する前に副作用を十分に吟味しなくてはいけなかったのです。
これは、投信業界の話だけでなく、企業における社員の評価体系にも言えることです。「見える化」などと役員が息巻いて何かと数値に落とし込むやり方は副作用がないかを事前に十分に議論するべきなのです。
まとめ
販売会社が顧客に損をさせているのではないか?を取り締まりたいのなら、理不尽な手数料体系や営業マンの低いスキルに目を光らせるべきです。
投資はリスクがつきもの。損をしても自己責任なのが投資です。販売会社は責任をとってくれません。
「貯蓄から資産形成へ」を促進するには、販売会社サイドを詰めるのではなく、投資家サイドのリテラシーを向上させることのほうが重要だと思います。
金融庁がつみたてNISAの普及に、また厚生労働省がiDeCoの普及に向けて、啓蒙および広告活動に尽力しているのは素晴らしいと感心するばかりです。
一方で、このような理解に苦しむ共通KPIなどという施策が出てくるのは少々残念に感じてしまうのでした。
それではまた。