企業利益が予測できても株式投資が成功するとは限らない(個別銘柄編)

こんにちは。YUMAです。

前の記事の続きです。

上記の記事では、米国の株式市場全体(S&P500)の将来利益総額が完全に予測できたとしても、その利益総額の動きとS&P500のリターンとの相関は高くないという分析を紹介しました。つまり、利益予測が完全でもバカ勝ちできるわけではないのです。

しかし、これはあくまで株式市場全体の話。個別銘柄で見た場合、将来利益が完全に予測できたのならば高いリターンが得られるのではないか、と考えるのも当然です。

今回はこの点での分析の紹介です。

最近は1年後が完全予測できたとしてもリターンがとれない

以下の記事で証券アナリストジャーナルに投稿された研究論文について要約が述べられています。

この研究では個別銘柄の12ヶ月先の利益が「完全に」予測できたとして、その場合の割安株に投資していたときの事後的なリターンを計算しています。

実際には全ての銘柄について将来利益を完璧に当てられるということはあり得ません。しかし、このような分析をすることで企業の稼ぐ力をもとに株価形成がされているのかどうか、を調べることができるということでしょう。

実際、バックテストを実施すると、日本では1980年代以降、完全予見投資は年率10%以上の高い超過リターンを出してきたという。必ず当たる利益予想に従って先回りして割安な銘柄群に投資するわけだから、実際の企業業績が株価に織り込まれていく過程で投資家は高い超過リターンを得ることができるわけだ。

このように、個別銘柄の利益が完全に予測できたのならば、予め割安株を買っておけば高いリターンを獲得することができたようです。ただしこれは1980年代以降という長期間の話です。

だがこうした「完全予見」による完璧なバリュー(割安株)投資が有効だったのは、2010年あたりまでだった。それ以降、日本ではリターンが上がりづらくなってきている。そして、18年は超過リターンが1.6%、19年は1.1%まで低下し、米国にいたっては19年の超過リターンがマイナスに転じている。

と述べられているように、ここ最近では日本では勝ち幅が非常に小さくなっています。超過リターン1~2%というのは、ほとんどのアクティブファンドが目標とする期待超過リターンに届いていないのではないでしょうか。

さらに米国ではなんと完全予測の割安株がアンダーパフォームするという結果となっています。

将来利益が完全に予測できたうえで割安株に投資したのに報われないなんておかしな話ですね。

10~20年先のキャッシュフローが完全予測できた場合

先程の日本の研究論文のなかで引用されていた米国の先行研究です↓(PDFが開きます)

clairvoyant(クレアボヤント)とは「透視」という意味の英単語です。この研究ではclairvoyant value という指標を定義しています。

clairvoyant value は個別銘柄ごとに将来のキャッシュフローが正確に予測できたと仮定して、そのキャッシュフローを割引いて総和する事で現在価値としたものです。将来のキャッシュフローには例えば10年など長期のデータを使います。

このclairvoyant value を計算してその時の株価と比較して、銘柄の割安/割高を定義します。PERやPBRが利益または株主資本を株価と比較して割安を定義するのと同じことですね。

clairvoyant valueで見て割安な銘柄に投資するとその後のリターンは高いものとなることが実証されています。ファイナンスのテキストが教えるとおりの結果ですね。

過去長期で見れば完全予測利益で見た割安銘柄は高いリターンを示したという先述の日本の研究結果と一致しています。

ただし、この米国での研究は1957~2007年で行われているため、2007年以降の市場環境ではどうなっているのかは分かりません。

もしかしたら日本の研究と同様に、clairvoyant value で見た割安銘柄が直近ではアンダーパフォームしているかもしれません。

なぜ完全予測できてもダメなのか

様々な理由が考えられます。

1つにはやはり世界各国による大規模な金融緩和によって、だぶついた緩和マネーが株式市場に流れ込んできたことがあり得るでしょう。これにより、個別銘柄の業績予想による選択よりも大型株や知名度、過去の業績といったものを見て選択される度合いが高まったものと考えられます。

同時期、というか現在進行形でパッシブファンドのブームが強くなってきています。一時的なパッシブへの資金流入により個別銘柄の割安/割高が是正されにくくなっている可能性があります。

これら2つはどちらかと言うと投資家の愚かな部分に理由を求めたものですが、逆に投資家が賢いことに理由を求める観点もあります。

例えば、投資家は個別銘柄における会計上の利益以外の部分を重要視し、評価した上で株価に反映させている可能性があります。数年後の業績以外の見えない価値を評価しているのならば、利益を完全予測できたとしても一時的に株価がついてこない可能性はあるでしょう。

変わりゆく競争環境への対応力、その企業が持つ特有のブランド力、ESG的な要素など、財務数値には現れないものを評価した結果として今の株価がついているのかもしれません。

もし、そういう世界が来ているならば、もしかしたら業績予想という概念自体の価値が下がってきているのかもしれません。

それではまた。