ESG投資って本当に良いと思いますか?2兎追って2兎を得られるのか

こんにちは。YUMAです。 ESG投資という言葉が出てきてかなりの年月が経過しましたね。

一昔前の概念ではCSRという言葉がありましたが、CSRの概念よりも、ESG投資のほうが経済的なリターンも求めつつ、金銭価値以外の部分、すなわち社会的な意味でのリターンを向上させようというニュアンスが強まっています。インパクト投資というのも同じ概念ですね。

言葉としてESGが根付き、またESGに関連したファンドも数多く設定されています。このESG投資の潮流は一過性のモノではなく根付くと思われます。

が、私は正直言ってあまりESG投資というものが好きではありません。というか腹に落ちていません。投資という手段を使って社会が良くなるようにというのがESG投資でありインパクト投資ですが、CSR活動やESGに積極的な企業はそれらを考慮せずに本業に専念している企業よりもパフォーマンスは低いのではないか、と考えてしまうのです。

1円でも多く稼ごうと考える企業と、多少のコストを払ってでも地球環境や労働環境を良くしようと考える企業では後者のリターンは低くなると思うのが普通ではないでしょうか?

そんな問題意識を持っていたところ、以下のような論文を見つけました。1つの石で2羽の鳥を殺す、というのは二兎追うものは一兎も得ずということわざと同じです。

Impact Investing: Killing Two Birds with One Stone?

Cornelia Caseau Gilles Grolleau

こちらの論文は、インパクト投資(ESG投資と同義としている)はほかのファンドと比べてパフォーマンスが優れているのか?について多くの先行研究を紹介するサーベイ論文となっています。また、インパクト(社会をより良くすること)を考慮する投資はなぜ経済的リターンを犠牲にすると思われてしまうのか?について、投資家の思考にバイアスがあるためだと論じています。

今回はこちらの論文の内容を簡単に紹介します。

インパクト投資をするファンドのパフォーマンス

他のファンドを上回ると主張する研究もあれば有意な差はないと主張する論文もあり、本当に様々のようです。

しかも、仮に有意なパフォーマンス差があったとしても、それが本当にインパクト(ESG的な要素)が企業評価を上昇させたことに起因するのか、それともインパクト投資の対象企業のファクター(特性)に起因するものなのかを判別することは至難の業です。

つまり、ESGに積極的な企業はインパクト投資ファンドの投資対象になるわけですが、そういう企業群というのは、例えば大型株に多いとか、キャッシュフローが相対的に少ない(or多い)とか、レバレッジレシオが高い(or低い)といった共通の特性を持っている傾向があります。そのような共通の傾向、すなわちファクターのリターンが分析期間の間でたまたま高かっただけの可能性があります。

したがって、リターンについてはまだ明確な答えが見つかっていない状況と言えるでしょう。

一方で、インパクト投資を行うファンドは他のファンドと比べてリスクが低いという傾向は有意に観測されているようです。ここはあまり議論の余地なく、ある程度の共通認識と言えそうです。また、株式市場が大幅下落するときの、ダウンサイドリスクも実際に低いことが確認されていると言います。

なぜ二兎追うものは一兎も得られないと思われるのか?

このペーパーの著者によれば、インパクト投資を行うことと、そのパフォーマンスが良いか悪いかは関連が見いだせていない以上は独立に考えるべきだとしています。それにも関わらず、私のように、インパクト投資をするファンドはパフォーマンスが他よりも悪い気がしてしまうのは人間のバイアスが原因だとしています。

The Goal Dilution Bias

無理に訳すのであればゴール希薄化バイアスでしょうか。

投資家に限らず人間は、1つのゴール(目標)を持つより複数のゴールを持つ方が、ゴール達成のための効率が落ちると考えてしまう傾向があるそうです。

まあでも実際にゴール達成にかけられる予算やリソースが分散され希薄化してしまうのであれば、バイアスで片付けられる類のものではなく、もっと慎重な扱いが必要な気はしますね。

The Zero-Sum Bias

訳はそのままゼロサムバイアスでいいでしょうかね。ある軸を考えてそこにかけるリソースは、他の独立した軸にかけるリソースとゼロサムであると思い込んでしまうバイアスのことを指します。実際にはゼロサムの状況でないにも関わらずです。

例に挙げられているのは、例えばイギリスのような先進国に住む人間が、アフリカのとある電力不足に苦しむ新興国の人のために、太陽光発電キットを貸し出します。このイギリス人は、キットの代金と使用料の合計額を貸し出したので金利収入を受け取るのですが、この金利はアフリカの某新興国の銀行が提示する金利の3倍もの高金利で貸し出すことができます。

この例の背景は分かりませんが、妥当化される状況を考えてみると、某新興国では一個人の太陽光発電のために銀行がお金を貸してくれないのかもしれません。また、某新興国の一個人は市中金利の3倍の金利を支払っても電力が安定供給されることによるベネフィットが格段に大きいのかもしれませんね。

このケースでは、太陽光発電キットを提供することで、貧しい国の電力不足という世界の貧困格差を是正することができるうえ、経済的なリターンも高いものを得ることができます。つまり、ゼロサムにはなっていません。

それでも、実際の金利水準が3倍というのを聞くまでは、「困った人を助けるための投資なんだから多少は採算が悪い投資なんだろう」と思い込んでしまいます。

なるほど、このバイアスは確かに私にもありそうです。

バイアスに打ち克つにはどうすればいいのか?

いくつかの方向性が紹介されています。

ゴールの数を減らす、優先順位をつける

ゴールが多いと効率が悪くなるのでは?と思われてしまうので、ゴールの数が多数ある場合は数自体を減らすことが有効とされているようです。まあ、それはそうでしょうね。

ただ、ここでのインパクト投資の話で言えば、ゴールは「経済的リターン」と「ESG的に良い会社に投資する」という2つだけです。このゴールはどちらも削ることが出来ません。

そこで、投資家のレベルや趣向に合わせて提案の仕方を変えるべきだという主張されています。

つまり、インパクト投資やESGについて懐疑的、もしくはあまり知識がない投資家層については、ゴールの優先順位を明確にします。経済的リターンを得るのが一番の目標です、可能であればESG的に優良な企業に投資します、のようなイメージでしょうか。

逆にインパクト投資に理解があり前向きな投資家層に対しては、優先順位をつけずに経済的リターンとESG要素の両方を重視します、という伝え方で問題ないでしょう。

ゴールの方向性を合わせる

全く別の次元のゴールが複数あると、それを同時に実現するのは非効率なんだと感じてしまいます。そこで、それぞれのゴールは互いに似ているんだ、方向性としては同じ向きなんだという説明をすることで個人投資家のバイアスを緩和することができると主張しています。

インパクト投資の文脈で言えば、ESG的に優良な企業に投資すれば経済的リターンも高くなるんだ、ということを強調するということですね。実際に、GPIFはESG投資に力を入れていますが、その背景として経済的パフォーマンスも優れるだろうというロジックが使われています。

ESGという言葉は、2006年に国連が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI)を提唱したことをきっかけに広まりました。経済が発展していく一方で、気候変動問題などの環境問題、サプライチェーンにおける労働問題などの社会問題、企業の不祥事など企業統治の問題が浮上し、経済社会の持続可能性が懸念される状況が生じました。ESG投資は、長期的にリスク調整後のリターンを改善する効果があると期待されており、それを示す実証研究の結果も増えています。

(出所)2019年度 ESG活動報告(クリックでPDFが開きます)

ESG投資が長期パフォーマンスを改善するかどうかは、まだこれからの検証課題であり先述の通りです。現時点で、パフォーマンスのメリットをあまりアピールしすぎるのも正直どうかとは思います。

ゴールの達成度合いを可視化する

複数のゴールがあっても最優先ゴールが達成できていれば個人投資家の疑念は収まるでしょう。その意味では、最優先課題がどれくらい達成できているのかをしっかり見える化することが重要と主張しています。

インパクト投資による投資成績はどのくらいで、これは市場平均やベンチマークに比べてどのくらい優位なのか劣後しているのか、これをしっかりと個人投資家にインプットすることが大切です。パフォーマンスが優れている、もしくは著しく劣後しているわけでなければインパクト投資に対する理解も深まっていくことでしょう。

感情に訴求しない

これはイマイチ理解が出来ませんでしたが、インパクト投資のファンドを個人投資家に提案する場合には、感情的にメリットをアピールするのではなく、しっかりとした情報提供を行ってアピールする方が良いとのことです。

感想

「2兎追う者は1兎を得ず」ということわざの背景を考えると、2匹を追いかけてもその2匹は別の方向に逃げるので、結局は1匹に専念しなくてはいけないところ、欲で判断が遅れてどちらも逃がすということですね。

もし、2匹のウサギが全く同じ方向に逃げてくれるならば、追いかけても最後に2匹を捕まえることができます。インパクト投資をサポートするロジックはまさにこれですね。

問題は全く同じ方向に逃げる2匹のウサギなんて現実に存在するのか?ということです。

今回の記事でも紹介している通り、インパクト投資やESG優良企業が本当に高いリターンをあげるかどうかは結論を得ていません。また、もしそれが事実だったとしても、その事実が世界に認知された場合、ESG優良企業の株価はその分だけ高くなってしまと思います。理由は以下の通りです。

ESG優良企業に投資するということは投資家にとって追加のリスクをとることになるでしょうか?

環境や社会にとって良いことを行うESG優良企業に投資をして、そのうえ追加的なリターンが得られるのであればこんなに良いことはありません。人は誰だって世の中を良くしたいと考えますから、進んでこの投資をしたいと考えるはずです。つまり、ESG投資は追加的なリスクなどではなく、むしろ逆です。

そう考えれば、ESG優良企業はむしろプレミアムが乗った株価で評価されていて、投資家は、「世の中のために良いことをしているという満足感」を得る代わりに経済的なリターンは低くても甘んじて受け入れる、という構図になりはしないかと考えます。

こう考えていくと、やはり2兎のウサギは別々の方に逃げて行っていることになるので、どっちのウサギを優先的に追いかけるのかは予めきっちり決めておくことしかできないのではないかと思うのです。

ということで、私はやはりESG投資には懐疑的なスタンスを取りたいと思います。

それではまた。