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算術平均リターンと幾何平均リターンの違いはボラティリティで決まる
こんにちは。YUMAです。
株や投資信託などの過去のリターンが例えば年率5%だったと言うときに、リターンの定義が算術平均なのか幾何平均なのかを気にする必要があります。
一般的に、証券会社のホームページなどに記載される商品概要の過去リターンは年率の幾何平均リターンが多いようです。
算術平均と幾何平均はそれぞれ何を意味するか、その差は何なのかを考えます。
算術平均リターン
算術平均リターンとはサンプルを足して割る、普通の人が最初に思い浮かべる平均です。
サイコロの目が1, 3, 5と出た時に平均は?と聞かれたら(1+3+5)÷3=3と答えますね。これが算術平均です。
i年目のリターンを$$r_i$$とするとN年間のリターンの定義式は以下となります。
$$算術平均リターンA=\frac{(r_1 +r_2+…+r_N)}{N}$$
高校数学では相加平均という言葉で出てきました。
算術リターンはいわゆる単利を意味するものです。複利効果という概念は含まれません。
単利とは例えば、1000万円のマンションから入る家賃収入が70万円ならば利回りは7%というときに使います。この家賃収入を何にも再投資しなければ複利効果は得られず雪だるまのように大きくならないので単利というわけです。他にも配当利回りや債券のクーポンを示すときは単利の概念ですね。
幾何平均リターン
幾何平均は日常生活の中ではほぼ使わない概念です。高校数学では相乗平均として登場しました。
先に定義式を書くと以下となります。
$$幾何平均リターンG$$
$$=\{(1+r_1)(1+r_2)…(1+r_N)\}^{1/N}-1$$
なぜ資産のリターンを評価するときに幾何平均リターンが大事かと言えば、複利の効果を考慮するためです。
幾何平均リターンは、複利効果込みで平均的にどのくらいの利回りであったか?を表す尺度です。
逆に言うと幾何平均リターンが分かれば、仮に100円をN年間投資した結果として資産は$$100×(1+G)^N$$となることがイメージできます。
実際の例で比較してみる
これら2つの平均リターンには、幾何平均リターンG ≦ 算術平均リターンA という関係が必ず成り立ちます。
具体例で見てみましょう。
4年間のリターンが10%, -5%, 15%, -20%という資産があったとします。
これの算術平均リターンAは、A=(10%-5%+15%-20%)/4=0%です。
一方で幾何平均リターンGは、$$G=\{(1+0.1)(1-0.05)(1+0.15)(1-0.2)\}^{1/4}-1$$$$=-0.98\%$$となります。
実際に100円を投資していたら、100×1.1×0.95×1.15×0.8=96.14円になっていたはずです。これは幾何平均リターンGを4年分重ねれば出てくる数字です。(1-0.0098)*(1-0.0098)*(1-0.0098)*(1-0.0098)=96.14となります。
算術平均リターンAはちょうどゼロなのに、幾何平均リターンGはマイナスで、確かにG≦Aの関係は成り立っていますね。
違いはボラティリティから生じる
算術平均リターンAは幾何平均リターンGよりも基本的には小さくなります。
両者にはどのくらいの差があるの?差の大小はどこから来るの?
この答えはボラティリティ(=リスク, ここではリターンの標準偏差σ)で説明されます。
一般的には以下の近似式がよく使われます(対数のベキ近似だけで簡単に導出できます)。
$$G\approx A-\frac{1}{2}\sigma^2$$
幾何平均リターンは算術平均リターンよりも低くなり、その差は「リスクσの2乗(これを分散と言う)」の半分で近似されます。
つまり、値動きが激しい資産の方が幾何平均リターンは算術平均リターンよりも低く見えるのです。逆にリスクがない資産、例えば預金金利などを考えれば算術平均リターンも幾何平均リターンもほとんど差はありません。
試しに先ほどの例で計算してみると、A=0%に対して、σ=13.69%と計算できますから近似式に当てはめてみると、$$0-\frac{1}{2}\times 0.1369^2\approx -0.94%$$となり、G=-0.98%と概ね近い数値が得られます。
この近似はリターンのブレ幅が大きくなると精度が悪くなるので今回は微妙ですが、実際のデータではもっと当てはまりが良いので興味のある方はTOPIXや日経平均といった身近なデータで試してみてください。日次データでも月次データでもOKです。
結局どう解釈すればよいか
算術平均リターンは日常生活で使う単純な「平均」です。幾何平均リターンは複利効果を考慮した資産の「利回り」を表します。
算術平均リターンについてさらに踏み込んで解釈してみましょう。
算術平均リターンとは複利効果がない概念です。
100円から10%下がった後に10%上がる場合、実際の資産価格は99円となりますが算術平均リターンは0%です。これの意味するところは、、、算術平均リターンは毎期投資額を一定に保った時の金銭的な利益を表していると言えます。つまり、上がっても下がっても投資額を100円にリバランスするということです。こうすれば、10%の下落で90円に値下がりしますが、リバランスして10円分を追加投資しておくことで次の期の10%上昇により100円が110円に値上がりして、トータルでは∓10円が相殺します。
逆順で、先に100円が110円に値上がりしたら10円分を売って現金化しておくことで次の期の10%下落は100円が90円になるだけで済む。トータルで損得ありませんね。
これが算術平均リターンの概念です。
一方で、幾何平均リターンは資産をBUY&HOLDしたときの投資成果を表しているとも言えます。複利効果込みの利回りを表す尺度なので自然ですね。
誤解を生む言葉、リバランス・ボーナス
BUY&HOLDの投資成果が幾何平均リターン(G)の概念に近く、一定額にリバランスする投資成果が算術平均リターン(A)の概念に近い。そしてG≦Aの関係が成り立つ。
あれ?
ということはリバランスしたほうが得するってこと?
「リバランス・ボーナス」という言葉が存在します。リバランスすることによってボーナスが手に入るかのような言葉ですね。
勿論、そんことはありません(笑)。リバランスをした方が儲かるのなら誰だってそうしてます。今回説明したGとAの関係を使った数字遊びから出てくる概念なのですがそれはまた次回の記事にしたいと思います。
それではまた。