リバランス・ボーナスという言葉の語弊。リバランスでボーナスなんて得られません‼️

こんにちは。YUMAです。

前回の記事で算術平均リターンと幾何平均リターンの違いについて考察しました。

そのときに少しだけ触れたリバランス・ボーナスという概念について紹介します。

幾何平均リターンと算術平均リターンの差がボラティリティで決まるという前回の話と根本的には通じます。

リバランス・ボーナスとは

リバランス・ボーナスとは何でしょうか?

リバランスしないよりも、リバランスする方が儲かる(=ボーナスが貰える)という詐欺みたいな解説がなされたりしています。以下のニッセイ基礎研のレポートも残念ながらそんな感じに書かれています。

このレポートの主張は誤りなのですが、数式などの定義は正しいのでご参考にどうぞ。

私なりにできるだけ簡単に定義を説明します。

まず、幾何平均リターン(G)と算術平均リターン(A)にはリスク(ボラティリティΩ)を通じて以下の近似式が成り立ちます。

$$G=A-\frac{1}{2}\Omega^2$$

これはあくまで2つの平均リターンの関係式に過ぎません。ここでは分かりやすく、Gをポートフォリオ全体の幾何平均リターン、Aをポートフォリオ全体の算術平均リターン、Ωをポートフォリオ全体のリスク(標準偏差)としましょう。同じように、個別銘柄の幾何平均リターンをg、算術平均リターンをa、リスクをσとすると個別銘柄iについても同じ式が成り立ちますね。

$$g_i=a_i-\frac{1}{2}\sigma_i^2$$

ところで、ポートフォリオというのは個別銘柄の集まりのことですから、ポートフォリオのリターンは個別銘柄のリターンを保有ウェイトwで加重平均したものになります。そうすると、

$$A=\sum_i w_i a_i$$

ですから、ポートフォリオの幾何平均リターンGは、

$$G=A-\frac{1}{2}\Omega^2=\sum_i w_i a_i -\frac{1}{2}\Omega^2$$

となります。ここの個別銘柄の算術平均リターンaを幾何平均リターンgとリスクσで置き換えてみましょう。

$$G=\sum_i w_i a_i -\frac{1}{2}\Omega^2$$$$=\sum_i w_i \{g_i+\frac{1}{2}\sigma_i^2\} -\frac{1}{2}\Omega^2$$

{ }の位置を少し調整すると以下のようになります。

$$G=(\sum_i w_i g_i)+\frac{1}{2}(\sum w_i\sigma_i^2 -\Omega^2)$$

この式の右辺の第2項がリバランス・ボーナスです。

$$Rebalance Bonus=\frac{1}{2}(\sum w_i\sigma_i^2 -\Omega^2)$$

グダグダ書きましたがこの式の意味するところは何よ?って話ですね。

数式の解釈

$$G=(\sum_i w_i g_i)+(Rebalance Bonus)$$

$$Rebalance Bonus=\frac{1}{2}(\sum w_i\sigma_i^2 -\Omega^2)$$

この式を眺めると結構面白いことが分かります。

  • 最も興味があるポートフォリオの幾何平均リターンGは、保有している個別銘柄の幾何平均リターンgの加重平均とリバランス・ボーナスの足し算になる。
  • リバランス・ボーナスとは、個別銘柄の分散(リスクσの2乗)の加重平均からポートフォリオ全体の分散(Ωの2乗)を引いたものである。
  • 分散投資効果により、基本的には個別銘柄のリスクの加重平均よりもポートフォリオ全体のリスクは小さくなる。
  • つまり、リバランス・ボーナスは必ず0以上であり、ポートフォリオの幾何平均リターンGは個別銘柄の幾何平均リターンgの加重平均よりも基本的に大きくなる

何だかおかしな気がしますね。個別銘柄の幾何平均リターンの積み重ねよりもポートフォリオ全体の幾何平均リターンの方が大きくなる。

例えば、過去1年間の銘柄Aの幾何平均リターンが10%で銘柄Bの幾何平均リターンが20%だったとして、それらを1:1で保有したポートフォリオの幾何平均リターンは15%よりも大きかったということです。

そんなことあるでしょうか?あるなら本当にボーナスですね。

具体例で見てみよう

上の例で言うところの「1:1で保有」というのがタネ明かしです。

数式の中では銘柄の保有ウェイトwは時間変化しない定数として扱ってしました。実際には、例えばTOPIXのようなBUY&HOLDのポートフォリオであれば、相対的に価格が上がった銘柄のウェイトは膨らんでいくし、大きく下がった銘柄のウェイトは小さくなっていきますよね。

これを定数として扱うということは、上がった銘柄を売って下がった銘柄を買って、保有ウェイトを一定にキープするというリバランスを行っていることに他なりません。

例で見てみます。

1年目リターン 2年目リターン 幾何平均リターン(年率)
銘柄A +20% 0% +9.54%
銘柄B -10% +10% -0.50%
↑の平均= +4.52%
A:B=1:1のリバランス・ポートフォリオ +5% +5% +5.00%

銘柄Aは20%上昇したあと横ばい。銘柄Bは10%下落のあとに10%上昇したとします。これらを1:1で保有するリバランスポートフォリオは、常にAとBを半々で組み入れていますから、1年目には(20-10)/2で+5%の上昇、2年目には(0+10)/2で+5%上昇となります。

年率の幾何平均リターンを見てみましょう。Aは√(1.2*1.0)=1.0954で+9.54%、Bは√(0.9*1.1)=0.995で-0.50%となります。これらを1:1で混ぜると(9.54-0.50)/2で4.52%です。一方で、1:1リバランスポートフォリオの幾何平均リターンは√(1.05*1.05)=1.05で5.00%となります。

銘柄A,Bの幾何平均リターンを1:1で混ぜた数値4.52%よりも、1:1でリバランスするポートフォリオの幾何平均リターン5.00%の方が0.48%ほど幾何平均リターンが高くなりましたね。

この+0.48%がリバランス・ボーナスということになります。

実は、この例は銘柄A, Bともにリスク(σ)が10%となるようにしてあります。なのでそれぞれAとBの分散は10%*10%=1%です。ポートフォリオのリターンは5%でリターンのばらつきがありませんから分散は明らかに0ですね。すると、リバランス・ボーナスの定義式から0.5*(1%-0%)=0.5%となります。実際の0.48%とほぼ同じですね。わずかな差はそもそもが近似式からスタートしていることによります。

数式のトリックなのでボーナスではない

ただし、結論から言うとボーナスというのは誤解です。

そもそもリバランス・ボーナスは何と何を比較してボーナスと言っているのか?

「リバランスポートフォリオの幾何平均リターン」と「個別銘柄の幾何平均リターンの加重平均値」を比べて前者の方が大きいので、その差をボーナスと呼んでいるのです。

前者は良いとして、後者って何でしょうか?個別銘柄の幾何平均リターンを並べて加重平均をとってもそれはエクセル上の数値であって現実には全く意味のない数値です。

全く意味のない数値を取り出してきて「リバランスによって追加ボーナスがとれます」なんてのは茶番です。

勘違いしてはいけないのは「個別銘柄の幾何平均リターンの加重平均値」はBUY&HOLDのリターンではありません。なぜなら、BUY&HOLDであれば各銘柄のウェイトが時間変化していきますが、数値上の幾何平均リターンをあとから混ぜ合わせてもBUY&HOLDのリターンは計算できないからです。

BUY&HOLD(=リバランスをしないポートフォリオ)よりも、リバランス・ポートフォリオの方がリターンが高いというのであればこれはまさにボーナスで、世紀の大発見なのですが残念ながらそんなわけはありません。

もしそうなら世界中の人がリバランスをしまくっているはずだし、TOPIXなんてBUY&HOLDの株式インデックスには意味がなくなってしまいます(笑)

リバランスがリターンにプラスに効くかマイナスに影響するかはあくまで不確実なもので分からないのです。

まとめ

「水からワイン」などと謳うのは数式遊びだと知りながらジョークでレポートを書いてるのかと思いましたが、リバランスによってリターンが上乗せできる趣旨を真剣に主張しているのはビックリしました。

現実にはリバランスによってリターンが上乗せされる状況もたしかに存在します。それは各資産のリターンが平均回帰性を示す局面が多々あるからです。

ただ、そのときにの上乗せはボーナスではなくて、下がった資産が将来上がると思うから買い増しするという逆張り戦略の帰結と同じで、リスクをとった結果に過ぎません。

何度も言いますが、リバランスはリスク管理には確実な効果がありますが、リターンが増えるか減るかは完全に不確実で読めないものです。

リバランス・ボーナスなんてのは数式上のトリック。現実には存在しないし、ましてや手に取ることなんてできないのです。

それではまた。