レバレッジ・ポートフォリオ(ブルベアファンド)の期待リターンは低いのか?(後編)

こんにちは。YUMAです。

  • レバレッジポートフォリオはリスクに見合うリターンになってない
  • 長期保有すると減衰するので期待リターンは低い

このような批判が度々されますが実際には多くの人が誤解しています。

その点を前回の記事で考察しました。

この記事によれば、簡単な思考実験をすると、決してレバレッジポートフォリオ(ブルベアファンド)の期待リターンが低いとは言えないことが分かりました。

今回は「期待リターン」について再考します。

期待リターンは過去の実績リターンとは別物

よく使われる期待リターンとは何でしょうか?

意味は将来的に期待されるリターン。そのままですが、実は決まった定義はありません。

「過去のリターンが高かったから期待リターンも高い」というイメージを持つ人がいますが、過去と将来は別です。過去がよければ未来も良いとは限りません。

肝に命じましょう。

過去のリターンが冴えなくても「今の価格が割安であれば期待リターンは高い」という使い方もあります。これは概ね正しい使い方ですが、いずれにしても確定的なことは言えないのが期待リターンという概念です。

年率リターンか?それとも累積リターン?

期待リターンが10%見込まれる!と言うとき、それが将来10年なのか50年の話なのかは使い方によります。また、年率換算して年率5%などと言うこともあります。

普通、ネット証券やモーニングスターなどでファンドの過去の実績リターンを示すときは、過去1年、3年、5年、10年などを記載します。この時は年率換算した数値を記載することがほとんどです。

過去3年のリターンが年率換算で5%ならば、実際には100円の資産が1.05*1.05*1.05=1.157625で、3年間で115.7625円になったということですね。

ブル2倍ファンドの長期リターンは年率換算すると必ず2倍より低くなるという数字のマジック

ここが通の唸るところですよ。

ブル2倍ファンドの累積の期待リターンはリスクに見合うものだったと前回きっちり説明しました。上げ下げを繰り返せば減衰して不利になりますが、「上げ上げ」とか「下げ下げ」も含めて考えれば、将来の期待値は不当ではありません。

ところが、この累積リターンを年率換算すると必ずブルファンドの方が不利な結果に見えます。

具体的には、リスクは2倍でもリターンは必ず2倍未満に見えます。

難しいことは言いませんが、これは凸性という数字のマジックみたいなもんです。

前回と同じく資産Aの例を見てみましょう。

  • 確率1/2で10%上昇
  • 確率1/2で5%下落

2期(2年と思ってください)経過すると資産Aは以下のような価格をとりえます。

資産Aの価格ツリー

スタート 1年後 2年後 累積リターン 年率リターン
121 21.00% 10.00%
110
100円 104.5 4.50% 2.23%
95
90.25 -9.75% -5.00%
期待値 5.06% 2.36%

「累積リターン」とは2年間でどれだけのリターンとなったかを表します。

「年率リターン」とは累積リターンを年率換算したものです。例えば、上げ上げの場合は1.10*1.10=1.21ですから、累積リターンは21%で、年率リターンは10%となります。

複利計算した利回りと思ってください。

期待値は、各状態(上げ上げ・上げ下げ・下げ上げ・下げ下げ)が1/4の確率で起こるので全部足して4で割った平均値です。

確率1/2ずつで+10% or -5%ですから、年率リターンは+2.5%になりそうですが、実際は+2.5%よりも低い+2.36%となっています。これは複利の効果によるもので、幾何平均は算術平均よりも小さくなる法則から来ています。

では、これの2倍の値動きをするブルファンドを見てみましょう。

ブルファンドの価格ツリー

スタート 1年後 2年後 累積リターン 年率リターン
144 44% 20%
120
100円 108 8% 3.92%
90
81 -19% -10%
期待値 10.25% 4.46%

資産Aとブルファンドを見比べてみてください。

  • 「上げ上げ」のとき、累積リターンでは価格Aは+21%なのに対してブルファンドは+44%と2倍以上の成績
  • 「下げ下げ」のとき、累積リターンでは価格Aは-9.75%なのに対してブルファンドは-19%と2倍も下落していない
  • ただし、「上げ上げ」「下げ下げ」のとき、年率換算したリターンでみればブルファンドは資産Aのちょうど2倍のリターン
  • 「上げ下げ」「下げ上げ」のとき、累積リターンでは資産Aは+4.5%なのに対してブルファンドは+8%と2倍未満の成績
  • さらに、年率リターンも資産Aが+2.23%に対してブルファンドは+3.92%と2倍未満
  • 期待値で見たとき、累積リターンで見るとブルファンドは2倍以上のリターン(+5.06%に対して+10.25%)だが、年率リターンでは見ると2倍未満(+2.36%に対して+4.46%)の成績となる

いかがでしょうか?

「上がったり下がったりする相場ではブルファンドは不利になる」というのは前回の記事ですでに説明しましたが、「累積リターンで有利に見えても年率リターンに直すとブルファンドは不利になる」のです。

色々とパターンを変えて計算してみても結果は同じになります。

年率換算に直した場合、リスクの分にリターンは見合わなくなるというのは数字のマジックとして必ず生じるのです。

まとめ

今回はブルファンドの期待リターンは低いのか?正当なのか?を考察するなかで、期待リターンとは何かを解説しました。

もちろん、期待リターンとは将来期待されるリターンであるので過去のリターンとは異なります。

また、過去のリターンでも「累積リターン」と「年率リターン」では見え方が不思議と変わってくることが分かりました。全く同じ事象を見ているのに見方によって変わってくるのです。

1つだけ言えるのは、ブルファンドのようなリスクの高い資産は年率換算すると見劣りして見えます。これは、凸性という数字のマジックみたいなものです。

だから何だというわけではないのですが、結論を言うとブルファンドの期待リターンは低いのか?の答えは、

  • 投資としてみれば、リスクに見合った期待リターン(資産の期待成長)を持つ
  • ただし、年率リターンという尺度で見るとリスクに見合わず不利に見える
  • 現実の相場は上げ下げを繰り返しやすいので長期保有すると不利になりやすいのは確か

となります。

なんだかよく分からなくなってしまったかもしれませんが、ちゃんとした知識や思考もなくブルファンドを批判するのは良くないということで終わりたいと思います。

それではまた。