こんにちは。YUMAです。 Global Retirement IndexなるものをフランスのNatixisという金…
Global Retirement Index(世界リタイア指数)の計算方法を見てみる
こんにちは。YUMAです。
前回、フランスの金融グループであるナティクシスがGlobal Retirement Indexなるものを公表していることを説明しました。
北欧系の小さな国々が上位に来ていましたね。
今回は、この指数といいますかスコアがどのように計算されているのかを詳しく見てみました。
復習
Global Retirement Indexの詳細な計算方法についてはAppendixに記載がありました。
前回、説明した通り、4つのカテゴリ(引退後の経済的豊かさ、物質的豊かさ、健康、生活の質)でスコアを計算し、それを合成することで総合スコアが計算されます。
それぞれの4つのスコアもまた、さらに小さい指標を計算し、それの積み上げで計算されます。
元となる指標は18個あります。
元データを基準化してスコアとする
スコアの計算方法についてです。各国の元データを取得したうえで、それを0-1に基準化する作業を行います。
点数が高い(優良である)国ほど、大きなスコアが付くように基準化します。
最大値(最も優良な国のスコア)を1、最低値(最も劣後している国のスコア)を0にして、他の国のスコアはその間に入るようにします。
例えば、健康カテゴリの計算に使われる「寿命」であれば、最初に各国の平均寿命のデータを取得します。
最大の国が85歳、最低の国が75歳だとすると、85と75の差である10を分母にし、分子は「対象国の寿命-最低値(75)」とします。
こうすると、最高値85歳の国はスコア1点、最低値75歳の国は0点となります。
もし、ちょうど間である80歳の国があれば、(80-75)/(85-75)で0.5点となります。このように、最高値と最低値の差(レンジ)で割ることで、各国の数値を0-1の間に相対化します。
失業率のように高い数値のほうが望ましくない場合には符号を反対にします。
基本的にはほとんどの指標は対数変換してから基準化します。対数変換する理由は、分布が偏っているデータを一様(線形)に近づけるためです。金融の世界では一般的な変形です。
健康(Health)指数の例
例として、Health(健康)カテゴリの計算方法を見てみます。
健康で使われる指標は3つで、「寿命」「1人当たり医療費」「保険適用外医療費」です。
寿命については世界銀行のデータを利用しています。寿命が長い方がスコアが高くなるように0-1に基準化し、寿命スコアを計算します。
一人当たり医療費も世界銀行のデータで、USD換算されたものです。医療費が高い(健康維持への投資が高い)方がスコアが高くなるように基準化し、医療費スコアを計算します。
保険適用外医療費についても、データは世界銀行から取得しています。保険適用外の医療が少ないほど、その国は保険によるカバーが広いということになり、医療へのアクセスが良いと見なされます。したがって、医療費全体における保険適用外の医療費の割合を算出し、この割合が低い方がスコアが高くなるように基準化スコアを計算します。
幾何平均で合成
基準化したスコアを合成する際には、算術平均ではなく幾何平均を使います。
最初、これがスッと頭に入ってこなかったのですが、要は「こっちの指標はすごく良いのにこっちはすごく悪い」国と「どれもそこそこ良いスコアである」国があったときに、前者にペナルティを課すような計算方法になっています。
具体例を見てみます。
例えば、先ほど紹介した健康スコアの3つの指標の点数で、3つとも0.7、つまり0.7-0.7-0.7といずれもそこそこ安定して優良という国と、1.0-0.8-0.3という優良と劣後のバラつきが大きい国があったとします。
両者とも算術平均(=単純平均)は0.7です。
一方で、幾何平均は前者が(0.7×0.7×0.7)^(1/3)=0.7なのに対して、後者は(1×0.8×0.3)^(1/3)=0.621…となり、後者の方が低い点数となります。
幾何平均は、対象の数値にバラつきがあると低くなるように作られているのです。
Global Retirement Indexでは基本的に全てに対してスコアを合成する際には幾何平均を用いています。
計算したい目的に照らして、突出して優良な指標と悪い指標が混ざっている国と、そこそこ優良な国とを比べて、単純平均が同じでもバラツキの大きい国のスコアが低く抑えられるように、という意図になっているのです。
スコア計算に使うデータ
上で書いたようにHealthに関しては寿命、一人当たり医療費、保険適用外医療費(率)の3つを使って計算されていました。
他をメモしておきます。
Material Wellbeing(物質的な豊かさ)については、一人当たり収入(ドル換算)、収入格差(その国の収入格差をGINI係数で計測)、失業率、の3項目の基準化スコアから計算されています。
Finances(経済的な豊かさ)に関しては、2つの項目から計算されています。1つ目は機関的強度(Institutional Strength)であり、世界銀行の発表しているテロ防止や政策的な安定に関するガバナンスを表した数値。2つ目は投資環境を評価した数値であり、老齢人口比率、インフレ率、実質金利、税負担(税収÷GDP)、不良債権比率(銀行の債権のうち利払いがないものの比率)、政府債務(政府債務のGDP比率)の6つから計算されています。
Quality of Lifeに関しては、2つの項目から計算されています。幸福度指数(過去3年平均、World Happiness Reportより)、自然環境です。自然環境は、空気清潔度(PM2.5の量など)、水・衛生状況(水安全と衛生状況を6:4で合成)、生物多様性(海や陸の保護区域割合)、環境因子(CO2排出)なの4つの合成から計算されています。
率直な感想
結構いい加減な作り方だと思いました。
いい加減というのは、数値的な扱い(幾何平均するところ)などは厳格できちんとしているものの、そもそものデータ項目がどうなのよって感じです。
まず、政府債務や失業率に関しては何とも優劣が判別しにくいですね。
日本は世界一の債務国(GDP比では)ですが、自国通貨での債務と他国通貨での債務を同列にするのはどうなのかなと。特に最近のMMTだの言われてる時代に。
失業率も日本は世界的に低位で一見良くも見えますが、それは解雇規制があったりイノベーションを阻害している根本的原因であるのも事実です。
環境系の指数に関しては基本的に先進国スコアが高くなり、新興国のスコアが低くなるように作られているように感じます。
もちろん、先進国のキレイな環境で老後を過ごせるほうが良いということを表しているとも言えますが、生物多様性とか気にしますかっていうね。
収入格差とかって資本主義の取り入れ具合というか、どれだけその力を借りているかですよね。
アメリカは資本主義をフルに活用してものすごく経済を回してるけど、その分だけ格差は大きい。
それで豊かになったアメリカ人が他国の人より真っ先に引退するのに、アメリカは経済格差が大きいし保険適用外医療が多いからスコアが低いんだってのもおかしな話な気がします。
とまあ、こんな感じで面白い指数ではありますがネタとして話半分に見ておくのが良さそうです。
それではまた。