赤身肉は体に悪いのか?研究論文を見てみる

こんにちは。YUMAです。

赤身肉や加工肉が健康に良くないというのは何となく聞いたことがあるかもしれません。ときどき何かの記事で見かけたりします。

実際に調べてみると国立がんセンターがレポートを出していました。

加工肉について「人に対して発がん性がある(Group1)」と、主に大腸がんに対する疫学研究の十分な証拠に基づいて判定されました。赤肉については疫学研究からの証拠は限定的ながら、メカニズムを裏付ける相応の証拠があることから、「おそらく人に対して発がん性がある(Group2A)」と判定しています。

海外の研究結果を引用してのコメントのようですが、ここまで強く断言されるとやっぱり体に悪いんだろうなって気がしますね。

でもこういうのってどうやって研究してるんだろ?と思って最近の研究論文を探して目を通してみました。

私は全くこの分野に専門性を持っていませんが、辞書で調べながら読んでみたので簡単にまとめてみます。

今回読んだのはこちら↓

Association of changes in red meat consumption with total and cause specific mortality among US women and men: two prospective cohort studies

米国を対象にした2019年のペーパーです。

アメリカ人の肉摂取量と健康状態を追っかける

今回のペーパーでは多数のアメリカ人の属性やら健康状態やらを登録しているデータを用いています。

  • The Nurses’ Health Study

女性のデータはこちら↑を使います。30~55歳の登録者がおり、1976年から収録されています。個人の属性のほか食生活や健康状態やら様々なアンケート調査項目が揃っており、本研究では53,553人の女性のデータが分析に使われます。

  • The Health Professionals Follow-up Study

同様に男性のデータはこちらを使います。健康状態など全ての調査項目が手に入る40~75歳のデータです。本研究では27,916人分の男性のデータを分析対象としています。

データの基礎統計値

Table 1(クリックで拡大)

早速見てみましょう。1日当たりの肉摂取量の平均値(標準偏差)です↓

肉摂取量の単位は残念ながらオンスのようです😣 1オンス=約28グラムです。

上の表(Table1)の左側、つまり女性であれば1986年には赤身肉(Red meat)を1日平均1.05オンス(=30g)ほど食べていましたが、2006年には平均0.74オンス(=21g)に減少しています。赤身肉のうち、ベーコンやソーセージといった加工肉(Processed meat)は、1986年には1日平均0.30オンス(=8.5g)食べていたのに対して2006年には0.21オンス(=6g)に減少しています。

年が新しくなるほど少しずつ数字が減っているのは、食事の量に気を使う人が増えたか、サンプルの人々の年齢が経つにつれて肉の摂取量が減ってきてるということを意味していると思われます。男性のデータでも同様の傾向があります。

※アメリカ人の肉の摂取量を別ソースで調べると全体的にこれらより大きな数字が出てきます。今回のデータは赤身肉の定義をやや絞っている可能性があります。

肉摂取量とその他データの関係

下の表(Table2)は1986~1994年の8年間で様々な基礎統計値がどのように変化したかを示しています。

上半分(Nurse’s Health Study)が女性のデータ、下半分(Health Professionals Follow-up Study)が男性のデータです。

一番上の”No of participants”を見ると多くの人が8年間の間に赤身肉の摂取量を減らしています。女性であれば1日当たり50%以上減少(半分以下の摂取に)したのが17,809人、15~50%減少したのが13,571人です。対して赤身肉摂取が50%以上増加(摂取量が1.5倍以上)となったのはたった3,531人です。この傾向は男性でも同じで、赤身肉摂取を減らした人の方が圧倒的に多いようです。

Table 2(クリックで拡大)

“Change in physical activity”を見ると赤身肉摂取を減らした人の方が数値が高い、つまり体を動かす時間が増えています。この傾向は女性で特に顕著ですね。赤身肉摂取を増やした女性は運動量も減っている。やはり、この8年間で健康に対する意識が広がったか、加齢の影響ということでしょうか。

また、”Change in total energy intake”を見ると、赤身肉摂取を減らした人はマイナス、増やした人はプラスとなっていますから、1日の摂取カロリーも肉摂取量と一緒に増減していることが分かります。

そのほか、”Change in AHEI score”(AHEI: Alternative Health Eating Index)はどれくらい健康的な食事をしているかを測るスコアですが、こちらも赤身肉摂取が減っている人はスコア上昇となっています。

肉の摂取量はその後の死亡率と関係がある

8年間の肉摂取量の変化がその後の8年間の死亡率にどれだけ影響するかをCox比例ハザードモデルを使って考察しています。

具体的には、1986~1994年の肉摂取量の変化やその他のデータを用いて1994~2002年の死亡率を、また1994~2002年の同じデータを用いて2002~2010年の死亡率を予測します。

肉摂取量やその他様々なデータを用いたときと用いない時とで、死亡する確率はどの程度変化するのか(どの程度予測可能なのか)?ハザードレシオというものがモデルの推定結果として示されています。

これは1であれば、肉摂取量の変化が死亡率に影響しないことを意味します。逆に1よりも大きくなるほど、死亡率が高くなることを意味し、1より小さくなるほど死亡率が低くなると解釈できるものです。この数値が1から離れているほど結果は強いものとなり、例えば0.90ならば死亡率は相対的に10%低いということを意味します。

ただし、±5%の信頼区間も重要です。例えば、肉摂取量を減らした人たちの推定値は0.97だから死亡率は3%低い!とは言い切れません。誤差の範囲かもしれないからです。0.97(0.94 to 1.01)のように推定値から±5%信頼区間のレンジが()の中に書かれています。上の例のようにこれが1をまたいでしまう場合は、1と明確に異なるとは言い切れない、つまり誤差の範囲かもしれないねという理解になります。0.97(0.95 to 0.99)ならば±5%のレンジをとっても1より低いので有意に死亡率は低いと主張できます。

さて、ペーパーにある結果は以下の通りです。

Table 3(クリックで拡大)

上段(Nurse’s Health …)が女性、中段(Health Professional …)が男性の結果です。横軸は肉摂取量の増減(50%, 15~50%, -15~15%)で5つのグループに分けています。Model2が主張したい結果です。

左半分、肉摂取量を減らした人々のハザードレシオは推定値こそ1を下回っており死亡率が小さくなるかのようですが、5%レンジがどれも1を跨いでおり明確な結果が出ていません。

右半分、肉摂取量を増やした人々は5%レンジを考慮しても1を上回っているものが多くあります。例えば、女性でRed meat 摂取を50%増やした人々のModel2の結果は1.11(1.02 to 1.21)となっており有意に死亡率が高くなることが示唆されています。一方で、摂取量が15~50%増えた人々では1.06(0.99 to 1.14)となっており5%レンジで有意ではありません。

さらに言うと、Unprocessed meat(非加工肉)に比べてProcessed meat (加工肉)の摂取を増やした人々の方が数値はほぼどれを見ても大きくなり有意であるため、死亡率はソーセージやベーコンといった加工肉の摂取により高くなることを示しています。

この結果は概ね男性でも同じです。

肉に変わる食べ物は何がいいか

肉の摂取量が減った人で、かつ◯◯の摂取が増えた人は死亡率が有意に下がるという結果も同じペーパーにあります。

◯◯は例えば、ナッツ、鶏肉(皮なし)、魚、乳製品、卵、豆類、穀物、豆類を除く野菜、などです。

Table 4(クリックで拡大)

ハザードレシオをご覧ください↓

多くの品目でハザードレシオが1を有意に下回っていますね。特に、nuts(ナッツ)とfish(魚)とeggs(卵)とVegetables without legumes(豆類を除く野菜)は、どこの数値を見ても±5%の信頼区間を含めて有意に1を下回っており、かなり有力な結果となっています。

まとめ

長くなりましたがまとめると以下の通り。

  • 今回のデータでは赤身肉摂取量を減らした人は、全体の摂取カロリーが減り、運動量が増え、健康的な食事になっていた。
  • 赤身肉の摂取量が増えた人はその後の死亡率が高くなっていた。
  • 逆に、赤身肉の摂取量が減った人の死亡率が低くなるとは有意に言えなかった。
  • 赤身肉の摂取量を減らして他の食物(ナッツや魚など)の摂取量を増やした人は死亡率が低くなった。

実際には日本やその他の国ではサポートされていない結果もあると書かれていました。

そもそも日本とアメリカでは肉の摂取量が著しく違うということも比較を難しくしているとことです。

感想

なるほどー 調査対象の人達の特性を追いかけながら肉の消費量と死亡の関係を調査しているんですね。

色々と調べながら読んでみたので個人的にはかなり勉強になりました。

しかし、ここまでされてもやっぱりどこかで「そうは言っても肉消費量以外の何らかの隠れた変数が影響してるんじゃないかなー?」と疑ってしまいますね。サンプルにも偏りがあるのでは?とか。

そもそも、加工肉は分かるとしても何で赤身肉が健康に良くないんでしょうか?肉牛に抗生物質やホルモン剤を与えているから?マグロの赤身はいいの?

人間の健康状態を追いかけて実証分析するのではなくて、普通に肉自体を物質として研究してほしいですね。細胞レベルでこれが悪影響を及ぼしているってのが出たら納得するんですけどね。

あと、ペーパーの本文の中に恐らくは誤植??と思われる記述があったり、ややいい加減な印象を受けました。

人間の健康に影響を及ぼす要素って無限にあると思うので、タバコとか影響するのが直感的に分かるならともかく、直感で納得できない特定の要因が健康に与える影響を調査するのってかなり難しいよなって気がしました。

と言うことで、これからも肉の摂取量を意識的に減らそうとは思わないかなと。

それではまた。