AI症候群を治癒するのは時間のみ

こんにちは。YUMAです。

ここ2~3年、第三次AIブームと言われて久しく世間は随分と盛り上がってますね。投信業界においてもAIブームの波はガンガン来てます。

AIで株価が予想できます!などと謳うファンドもいくつか出ています。AIで株価予測なんかできるわけねーから安心して無視して大丈夫ですけどね。

で、そもそもAIってなに?

世間が騒ぐAIの正体は?

世間がAI(人工知能)と呼んでいるのは機械学習のことです。SAS Institute Japanによれば、

機械学習とは、コンピューターがデータから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すことです。

ざっくり言ってしまえば、変数xと変数yの間の関係をy=ax+bのような形で推定するイメージです。これが精度良く推定できれば、「xが上昇したのでyは上昇(もしくは下落)しそうだ」という予測を立てることが可能になります。

機械学習には様々な種類があり、最もシンプルなものであれば回帰分析から始まり、複雑なものではディープラーニング(深層学習)などが挙げられます。

勘違いしてほしくないのは、世間が今騒いでいるAIとはドラえもんやスピルバーグの映画に出てくるような人格を持ったロボットではないということです。

ドラえもんのように、いわゆる皆がAIだと考える万能ロボットは汎用型AIと言われます。これは現時点では開発されておらず、実現するとしても相当先の未来になると言われています。

もう一度言うと、いま世間が騒ぐAIとは昔からある機械学習のことです。

これで株価が予測できるなんてのは妄想です。なぜなら、株価予測が可能ならば、それを開発した特定の運用会社やマネージャーが利益を生み出し続けますが今そんなことは実現していません。仮に実現したとしても周りがそれに気づくでしょうし、儲け続けることで自ら収益機会を潰していくことになり継続不可能となるからです。

これまでの計量分析(クオンツ)との違いは?

基本的にはありません。

これまでもクオンツ運用と呼ばれる運用手法がありました。ボトムアップに企業分析をすることなく、人間の恣意性を可能な限り排除し、計量分析に基づいたモデルにしたがって運用するものです。

機械学習により推定したモデルに従って運用する今話題のAI運用とは、従来から存在するクオンツ運用の一種です。呼び方を変えリニューアルといった感じですね。

すべてAIが運用するファンドが登場(笑)

従来のクオンツ運用であれ、最近のAI運用であれ、可能な限り人間の恣意性は入れないようにモデルに従って運用をします。しかし、そうは言っても、どんなモデルを推定するか?どんな制約条件を設定するか?など前提の部分では必ず開発者の恣意性が入ります。

そんな中、先日、三菱UFJ国際投信からeMAXIS Neoというファンドのシリーズが新規設定されました

日経新聞によれば、

三菱UFJ国際投信は人工知能(AI)が運用内容を決める投資信託を8月に発売する。言語処理などの技術を持つ米企業と提携、どの銘柄を採用し、どういう割合にするかなどすべてAIが担う。これまでも運用の一部にAIを活用する投信はあったが、すべてをAIに任せる投信は日本で初めてとなる

とされています(笑)。

どの銘柄に投資するか、その割合も含めてAIに全てを任せるというのは不可能です。

銘柄数をどのくらいに抑えるか?どの程度まで流動性が低い銘柄を許容するか?取引コストをどう抑えるか?投資先の企業で不祥事が起きたときにどう対応するか?議決権をどう行使するか?

一つ一つの課題に特化した機械学習や最適化モデルは存在しても、これら全てを最適に解決する汎用型AIによる運用は不可能です。

ドラえもんのようなロボットに運用を任せておけば人間は昼寝しててもオッケー、ってなことにはならないのです。

正体はテーマ銘柄探索型モデル

先日、三菱UFJ国際投信から新規設定が発表されたのは以下の3本です。

『eMAXIS Neo 遺伝子工学』

『eMAXIS Neo ロボット』

『eMAXIS Neo 宇宙開発』

来年に同じシリーズの商品ラインナップを増やしていくことも発表されています。

私が見たところ、eMAXIS Neo シリーズの正体は以下のようなものです。

  • 米国のKensho社が各テーマに関連した銘柄を集めた独自インデックスを開発
  • 遺伝子工学ファンドであれば、Kensho Genetic Engineering Index(配当込み、円換算ベース)と言うインデックスを算出している
  • このインデックス開発手法に機械学習が応用されている
  • 三菱UFJ国際投信はそのインデックスにトラックするように運用を行う

つまり、これまでのテーマ型ファンド、例えば「フィンテック」関連ファンドなら、人間がフィンテック関連の銘柄を探してポートフォリオに組み入れていた訳ですが、テーマ関連銘柄を自動探索する(ネットワーク上をクローリングすると思われる)技術がKensho社の付加価値となります。

一言でいえば、独自インデックスを開発(Kensho社)し、それに対するインデックス運用を行う(三菱UFJ国際投信)イメージでしょう。

3本とも信託報酬は0.72%(税込0.7776%)であり、アクティブファンドにしてはリーズナブル、インデックスファンドにしては高めに設定されています。

AI症候群の患者はどこまで増えるの?

私が勝手に呼んでいるAI症候群とは、「AIを使えばこんなことができます!」と中身が大したことないのに高々とアピールする病気です。

「AIが最適なポートフォリオをご提案」

「AIによって売り手と買い手をマッチングさせます」

「AI分析によって適切な人材採用を行えます」

AIは万能であるかのようなキャッチコピーを平気で何にでも付けますね。

たしかに一部の産業については飛躍的な高度化・効率化が進んでいるのは事実ですが、正直に言えばポートフォリオマネジメントについては従来のクオリティから殆ど変わっていませんし、これからも大きくは変わりません。

ましてや、AIを使えば株価予測ができて儲かりますなんてことは絶対にありません。

個人投資家の皆様には、販売会社・運用会社のキャッチコピーに惑わされることのないように十分に注意してほしいと思います。

それではまた。