GPIFがワーキングペーパーを掲載。成功報酬の考え方が分かりやすい!

こんにちは。YUMAです。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)から「GPIFの新しい実績連動報酬」というタイトルのワーキングペーパーが本日付けで掲載されています。

本文から抜粋

GPIFでは全資産の約 2 割をアクティブ運用機関に委託して運用しているが、2014~2016 年度の 3 年間で目標超過収益率を達成したファンドは少数にとどまる。

この原因としては、GPIFの選定能力の問題に加え、アクティブ運用機関側には目標超過収益率の設定が適切でない可能性及びキャパシティ管理より受託残高の増大に注力している可能性が考えられる。

このため、従来の固定報酬や緩やかな実績連動報酬の仕組みを改め、次のような新しい実績連動報酬を導入した。
① アラインメント強化のため、基本報酬率をパッシブ運用の料率まで引き下げるとともに、実績連動報酬部分の上限を撤廃
② 報酬額が中長期的な運用成果に連動するよう、毎年の報酬支払を一部留保するキャリーオーバーを導入
③ 中長期的な運用目標の達成を可能とするため、複数年契約を締結

GPIFはユニバーサル・オーナーとしてパッシブ運用への依存度が高い。パッシブ運用は効率的な市場が前提であり、市場が効率的であるためにはアクティブ運用は不可欠。今回の新実績連動報酬の導入がアクティブ運用機関の一層の高度化につながることを期待

簡単な解説

要旨だけ噛み砕いて説明します。

基本報酬と実績連動報酬

アクティブ運用の報酬体系には2つあります。

①基本報酬

パフォーマンスに関係なく運用残高に一定の報酬率を掛けて算出。固定報酬のこと。

②実績連動報酬

目標となる超過収益を達成した場合に成績に応じて算出。成功報酬のこと。

今回、GPIFは②の実績連動報酬の仕組みを導入しました。正確には一部で導入済だったものをよりブラッシュアップさせました。

実績連動報酬率のイメージは以下の通り。

横軸の超過収益がマイナスの成績(図の赤ゾーン)だと成果ゼロと見なされ、縦軸の報酬率は僅かな基本報酬分しか貰えません。この基本報酬率がどのくらいかは分かりませんが、「パッシブ運用と同じ料率」と述べられていることから恐ろしく低い水準であると思われます(笑)

超過収益が大きく取れるほど成果がたくさん得られたということで、報酬率は上がるため、グラフは右肩上がりになっていきます(図の緑ゾーン)。

実績連動報酬のデメリットは、成績が悪くなったマネージャーが一発逆転を狙って過度なリスクをとってしまうことです。

例えば、「今期はベンチマークに3%も負けてるな。報酬計算の期間は残り1ヶ月しかないぞ。大きな負けも小さな負けも同じ、どうせ安い基本報酬しか貰えないんだから、いっそのこと博打に出よう!上手くいけば1ヶ月で大逆転できて実績連動報酬が貰えるかも!」てなかんじです。

キャリーオーバー

その博打をさせないようにする仕組みがキャリーオーバーです。

「今期の勝ち分の一部は来期にお預け。来期に負けてたらそれと相殺するからね」という感じでサンプル期間を伸ばす仕組みです。こうすれば、仮に今期に大負けとなっていてもさらなる負けを覚悟で博打に出ることはなくなります。なぜなら、来期に見事に超過収益を取り返したときに、今期の負けはある程度抑えておきたいと思うからです。

要は今だけを考えず先々のことも考えるようになるのです。

複数年契約

複数年契約を前提とすることで、「お前は今期の成績が悪いからクビだ!」というパターンを減らします。

ファンドマネージャーはある程度長期の時間軸で運用しているので、苦手な相場環境で成績が悪いからと言って即座に解雇すべきではありません。むしろ、マネージャーをコロコロ入れ替えることによるコストが高くつくことになります。

個人的な感想

今回のワーキングペーパーは成功報酬の導入とそれに至るプロセスが詳細に記載されており、GPIFが情報公開に積極的に取り組むと同時に、国民に説明責任を果たそうとする姿勢がうかがえ、大変に好意的なものと受け取られるでしょう。

成功報酬の概念も図解され、とても分かりやすいです。

一方で、冒頭の以下の部分。

GPIFはユニバーサル・オーナーとしてパッシブ運用への依存度が高い。パッシブ運用は効率的な市場が前提であり、市場が効率的であるためにはアクティブ運用は不可欠。

ここは賛否が分かれるでしょう。

  • GPIFはパッシブ運用がメイン
  • パッシブ運用は効率的市場によって肯定される
  • 市場が効率的であるためにアクティブが必要

このロジックでは、高いリターンを享受するためにアクティブマネージャーを採用するのではなく、アクティブ運用の価格発見機能を利用してパッシブ運用の効率を上げる、とも捉えられます。

受益者である私たち国民からすれば、市場が効率的かどうかなんてどうでもよいことで、収めている年金保険料がいかに効率的に運用されているかが重要です。

「市場の効率性を保つためにアクティブマネージャーにわざわざ高い報酬を払っているんですか?」という問いに対してワーキングペーパーの著者(GPIF)はどう答えるつもりなのでしょうか?

それではまた。