恐怖プレミアム(Fear Premium)と行動ファイナンス

こんにちは。YUMAです。

株式リスクプレミアムとは株式に投資することで得られると期待されるプレミアム(リターン=得)を言います。

ファイナンスの理論では、CAPMのような株式リスクプレミアムを説明する理論体系が中心にあります。

しかし、これは概念的には概ね正しそうではあるものの、とても現実には当てはまる類のものではなく、現実はもっと複雑だし、合理的ではないことが知られています。

皆、それは分かっていてもあくまで基礎としてファイナンス理論、そしてCAPMを学ぶわけですが、最近面白い記事を見かけたので紹介したいと思います。

行動ファイナンス的な要素を含めた議論になっていて、メンバーの性格上、細かい数式やモデルの説明ではなく、今のファイナンス理論に足りないものは何か、概念的な議論が行われています。

その中で面白かったワードが”Fear Premium”、訳せば「恐怖プレミアム」といったところでしょうか。

“If we thought of the equity premium as a fear premium — if we had the luxury of going back 60 years and labeling it a fear premium — a lot of the so-called anomalies that we’ve talked about would not be anomalies at all. They would be totally reasonable and expected.” — Rob Arnott

もし、我々が株式プレミアムを恐怖プレミアムと捉えるなら(もし60年前にタイムスリップして恐怖プレミアムという呼び方に変えることができたなら)、いまアノマリーなどと呼ばれているものの多くはアノマリーではなくなっていただろう。それらは予見されるものであり、説明可能なものとなっていはずである。

ファイナンス理論で普通に定義される概念として「リスクプレミアム」というものがあります。リスクを取ったらその分だけプレミアムが得られる、報われるという概念です。

しかし、実際にはリスクという定義があいまいです。ファイナンス理論の中ではリターンのバラつき、すなわち標準偏差で定義されるものですが、これは理論的な扱いやすさをベースに導出されたものでもあり、現実の「リスク」とは必ずしも一致する概念ではありません。

数学的な扱いやすさを横に置いておけるならば、投資家の考える「リスク」とは不確実な概念全てを指すでしょう。そして、その不確実な可能性のなかで自分にとって不利になる可能性を恐怖と感じ、より本質的な「リスク」と捉えるはずです。

つまり、恐怖こそが投資家の嫌うものであるならば、その恐怖が大きい対象に投資することこそが大きなリターンを得ることの源泉になるはずだというのが恐怖プレミアムの概念です。

この考えで行けば、かつてアノマリーと言われていた「小型株アノマリー」は、大型株に比べて小型株の方が倒産したり不祥事を起こす可能性が高いためにみんなが投資することを嫌がる。そのために合理的に割安にプライシングされている。だからこそ、恐怖を感じつつも、そこへ投資した者へは事後的に高いリターンで報われる、とこういう理屈になります。

実際には小型株アノマリーは今は観測されなくなっているものですので、あくまで過去の話になります。

バリューアノマリー、バリュープレミアムも同様です。グロース銘柄に比べてバリュー銘柄に投資することには恐怖が付きまとう。財務リスクが高かったり倒産確率が高かったり、GAFAMのような成長ストーリーもない。この恐怖に打ち克って投資するからこそ、事後的には高いリターンが得られるのである、と。そういう話です。

この「恐怖プレミアム」という概念があれば、流動性が低い銘柄に対するプレミアムや、モメンタムのアノマリーも全てが説明可能であると、Rob Arnottは主張しています。

なるほど。その通りです。

というか、そもそもファイナンス理論で言うところのリスクも同じような概念でした。期待効用の話から始まったものです。

コイントスで100円貰えるか100円払うというギャンブルをするか、それともギャンブルをしないか。表裏が1/2の確率なので、期待値は0円です。であればドキドキしたくないのでそもそもギャンブルをしない、不確実性を避けるというのが元々の期待効用の理論です。

これを数学的な扱いやすさの観点で2次の変動で捉えたものがボラティリティ、つまり今のファイナンス理論のリスクです。

したがって、恐怖という概念がプレミアムの源泉だというのは別に普通の話というか、まあそうだよねという感じです。

問題は、それをどういった指標で定義するか、果たして数学的に扱いやすいのかといったところで難点があるだけで、概念的には全く持ってRobの主張する通りだと思います。

ただし、概念的に、より正しそうなことを主張したとしても、今のファイナンス理論を築いてきた理論体系(CAPMなど)を批判するだけの権利はないというのが正直な感想ですね。

新しい恐怖という概念を数値化して、それをもとに全く別の新しい枠組みを作ることができたら、そこで初めて今のファイナンス理論と同レベルの市民権を得られるということだと思います。

ただ、行動ファイナンス的な観点として「恐怖プレミアム」はかなり良い概念というか、納得性の高いものであるため非常に興味を引きました。

この考えを元にすれば、ちょうど数か月前までの「レバナス」などという舐めたワードが流行っていたのも、ただの茶番とみなせるでしょう。

恐怖さえ感じないのにリターンを得るなんて、そんなことできるなら誰だってそれを選択します。結局は、本来伴っているはずの恐怖から目を背けたり、恐怖を恐怖と感じないようなおかしな感覚になって熱に浮かされていただけのことなのでしょう。

それではまた。