チャールズ・エリスが指摘する老後のお金の不安

こんにちは。YUMAです。

日本では「敗者のゲーム」という本の著者として有名なチャールズ・エリス。彼は老後に向けたファイナンシャル・プランニングの啓蒙活動にも積極的です。少し古いですが以下の本などが有名です。

彼がこれらの分野で短いレポートを書いていたのを見つけたので簡単にまとめます。

以下、出てくる制度や数字は全てアメリカのものです。

レポートの概要

日本と同様、アメリカにおいても年金制度やリタイアメント・プランニングには数多くの課題が山積しています。

そのなかでエリス自身は「長く働くこと」の重要性を訴えています。定年退職は70歳程度が適当だと考えているようです。

また、アメリカでは日本以上にDB(確定給付年金)からDC(確定拠出年金)への移行が進んでいるわけですが、そのなかで「DCとの上手い付き合い方」が大事だと述べています。

老後の安心のためには、まず「貯蓄」こそが最重要で、株式投資などの資産運用の知識をつけることも大切です。

多くの労働者がよく吟味もせずに捨ててしまっている選択肢とその経済的な結果を理解してもらうこと、その手助けこそが金融のプロがすべきことだとしています。

老後のためのミニクイズ

いきなりですがこのクイズが面白かったので載せておきます。

クイズ

  1. 定年退職に適正な年齢が65歳と決められたのはいつでしょうか?
  2. 勤労(現役)年数と退職後(老後)年数の比率が、社会保障法の制定された1935年と現在とで変わらないとしたとき現在の適切な定年退職は何歳になるでしょうか?
  3. 年金額などの社会保障の手厚さは62歳で請求した場合と70歳で請求した場合にどれ程の差が生じるでしょうか?
  4. 私たちのうちのどの程度が介護が必要となるでしょうか?
  5. アメリカ人のどの程度が退職後に向けた適当な貯蓄や資産運用のやり方を知っているでしょうか?

解答

  1. ドイツのビスマルク宰相により1890年代に制定された。その当時の平均寿命はなんと50歳以下(!!)現在の平均寿命は86歳まで延びている。
  2. 1935年当時と現役年数/老後年数の比を同じとするなら現在の定年退職年齢は70歳オーバーとなる。
  3. 推計によれば62歳ではなく70歳に請求することで受給額は76%も増える!22歳から働いたとすると40年間と48年間の労働期間は20%伸びてるだけだが金額的には年間76%もの差がつく。
  4. 今の60代の夫婦のおよそ半分が、少なくとも6ヶ月以内に夫もしくは妻のいずれかの介護が必要となる。
  5. 多くの勤労者が資産運用の知識や経験もなく、適正な貯蓄額も知らない。肉食系のセールスマンもこの状況に加担している。

究極の問題は、もし62歳で退職してしまったとして平均寿命の86歳までの24年間で資産を食い潰してしまわないかどうかでしょう。

DCにおけるベストプラクティスとは何か?

この問題に対してエリスは、

  1. 少なくとも70歳まで働くこと
  2. DCプラン(確定拠出年金)などをうまく活用すること

が大事だと述べています。

特にDCプランについては、加入者に拒否権を必ず与えるという前提の上で、以下のベストプラクティスを提案しています。

  • DCプランへの加入は原則、自動加入とすべきである。勿論、拒否権はある前提で。
  • 事業主はDC加入者にどの程度の貯蓄が老後のために必要かをしっかり理解させることが必要である。
  • マッチング拠出も自動加入とすべきである。
  • 加入者の昇給に合わせて拠出額も上げていき、事業主と加入者の合計拠出額がターゲット(例えば給与の12%)に届くまで上げていくべき。
  • 加入者のポートフォリオは自動的にターゲットデートを想定したインデックスファンドの組み合わせとするべき。
  • 事業主はDCプランに加えてALDA(advanced life deferred annuity、年金保険)の活用も吟味すべきである。ALDAは高いコストがかかるので事業主が買うべきもので加入者の長生きリスクを軽減すべきだ。
  • 加入者は老後期間の資産の減衰(ドローダウン)を年4%に抑えることや、IRS(アメリカ国税庁)の示す「最低引出義務」をトラックするというような知識を教育されるべきだ。

加入者にとって基本的に良いものはデフォルト設定であれこれつけてやれという感じですね。特に、運用商品までターゲットデート型のバランスファンドに自動的に投資させることを提案しているのは驚きです。

また、日本で言う個人年金保険に似たALDAを企業が従業員に買うべきだと言っているのも面白いです。少し行き過ぎにも聞こえますが、資本主義の行き着く先は株主や事業主が労働者に優先・搾取するという構図になりますから、これらを緩和するような仕組みを作るべきということなのかもしれません。

「最低引出義務」というのは日本にない仕組みです。アメリカには非課税口座が幾つかあるわけですが、70.5歳になったらそれらから毎年決まった額のお金を引き出していかなくてはならず、その最低額が法律で決められているのです。非課税口座で貯めたお金を次世代に残されると不公平なので平均的には死ぬまでに非課税口座からお金を出しきってね、というのがルールの背景です。破ると厳しいペナルティがあります。

感想

日本においても不十分とは言え、NISAやiDeCo のような非課税口座をはじめとした資産形成を助ける様々な仕組みが設けられています。

しかし、個人の選択の自由ばかりが尊重されると知識のある人だけがそれらを活用でき、知識のない人(本来的に必要な人が多い)はうまく使えないということが往々にして起こります。iDeCo、マッチング拠出、繰り下げ受給などはまさに典型でしょう。

ある程度の強制的な仕組みやデフォルト設定をもっと積極的に仕組みとして入れていくべきなのかもしれませんね。

それから、「最低引出義務」という制度を日本にも取り入れてみてはどうでしょうか?

つみたてNISAの期間を20年で縛るとかよりも、老後の消費の最低金額を縛る方が富めるものをより富ますことになりにくいし、老後難民を守るというベクトルにも合ってるし、高齢者による消費で経済も回って良さそうな気がします。

この辺りは興味深いので少し調べてみたいですね。

それではまた。