負債を現在価値で語ることの意味

こんにちは。YUMAです。

↑こちらの写真はこの夏にとある墓地にて撮影したものです。ものすごい数のバッタがいました。

先日、契約した物件の融資が無事に下りて引き渡しが完了しました。家賃収入も入ってきています。

さて、そこで他の物件のローンで、金利が高いものを繰上返済しようかと思っています。

ただ、不動産業者曰く、「繰上返済に現金を使うなんてもったいない」「それなら現金で物件を買った方が良い」とのことで、それはどうなんだろう、経済的に合理性はあるんだろうか、などと考えながら、ネットサーフィンをしていました。

そこで、この論点とはやや異なるのですが「ん?」と興味深い話を見つけました。

それが今回の記事のテーマです。

ズバリ、ローンを長く借りることのメリットを定量的に示せるのかという話です。

ローンを長く借りることのメリット

このワードでネット検索すると色々出てきますが、そのほとんどは言っていることが一緒です。

同じ金額のローンを長い期間で借りれば、毎月の返済額は小さくて済む。しかし、金利は雪だるま式に増えるので、返済する合計金額は大きくなる。

同じことですが、ローンを短い期間で借りれば、毎月の返済額は大きくなる代わりに早く完済することになり、また期間も短ければ金利が雪だるま式に増える期間も短いので合計の返済額は小さくなる。

シンプルな話なのですが、一概にどちらの方が良いとは言い切れないのが難しいところです。

住宅ローンを背負う一般家庭にとっては、毎月の返済が重くなると生活そのものに影響しますし、例えば企業や私のように不動産投資をする者にとっては毎月の負担を減らしてその分だけ投資を増やしていきたいという人もいるはずです。

なので、合計返済額が大きくなることは分かっていても目先の返済が軽くなるように長いローンを好むというのは合理性はあります。

負債の現在価値とは

では何年で借りるのが良いんだろうか?今よりも短く借りた方が良かったのだろうか?長くて良かったのだろうか?という問題が出てきます。

長い方が良いのか、短い方が良いのか、それは理論的に計算できないのでしょうか?

これは繰上返済をするべきなのか、ローンの借換えをするべきなのか、という問いにも直結します。

そんな折に、この問題を定量的に論じている記事を見つけました。私としては「この問題は心理的な要素も多分に含むので定量的に論じることはできないだろう」と思っていたので、驚くとともに注意深く読みました。

そこでのロジックは一見するととてもシンプルでした。現在価値という考え方です。

例えば、今日の100円と1年後の100円は価値が違う、今の100円のほうが価値が高い、なぜなら仮に金利が5%あるならば将来の100円とは今でいえば95円程度の価値しかない、時間はお金を増やす効果があるのだから遠い未来の100円ほど現在価値に直せば低い価値になる、という教科書的な話があります。

これを負債にも当てはめたものでした。

今すぐに返さなければいけない100円と、1年後に返さなければいけない100円は価値が同じでしょうか?

もし、あなたが誰かに借金を押し付けられたとして、今すぐ返す100円と1年後に返す100円のどちらかを選択できるのであればどちらを受け入れますか?

同じ金額を返さなければいけないのなら1年後に返済する義務のほうがマシだと思うでしょう。

それは、将来の100円は現在価値でいえば100円よりも低いからです。

このロジックでいえば、ローンの期間を長くとるメリットがあります。

なぜならば、合計の返済額は増えたとしても、返済するまでの時間が延びるからです。

遠くの未来に返済する負債の現在価値は小さくなるため、返済すべき負債の現在価値合計は返済期間を長くとる方が小さくなることもあり得るのだそうです。勿論、割引率にも依存しますが。

ただ、私はこのロジックを読んだときに何か違和感がありました。

この違和感は何だろうと少し考えてみたのです。

資産と負債を両建てで考えるという前提

将来の100円を現在価値で考えたときに100円よりも小さくなる。

教科書の最初で習う話ですが、これを負債にもそのまま当てはめて良いでしょうか?

将来返す100円と今すぐ返す100円は負債としてはどちらが重いでしょうか?

今すぐ返す100円のほうが重いですよね。普通はそう感じるはずです。

では、やはり将来の100円という負債も現在価値にすれば100円より小さくなるということでしょうか?

ここでよーく考えてください。

なぜ、後で返済する100円のほうが楽に感じましたか?

それは時間があるならば今のお金を増やすことができるから、増やしたお金で100円を返済する方が楽だと思ったからでしょう。

つまり、時間があれば増やすこともできるから同じ100円を返済するならできるだけ遠い未来のほうが楽だと考えたはずです。

この時、話の前提となっているのは負債の価値を論じるときに資産の価値を同時に考えたということです。

未来に返済するための原資が今あったとして、それを今すぐ返済に充てるのか運用して増やしてから将来返済に充てるのか、そういう背景があったということになります。

つまり、未来の負債は現在価値に直せば小さい、それはその通りです。しかし、だからといって長く借りたほうが有利というのは前提を抜いたミスリードです。

実際には、返済するための「資産」も一緒に考えて、その資産を増やす、そして返済に充てる、そのためには時間が味方するんだ、そういう話を抜きにしては語れない問題なのです。

雪だるま式に増える負債も今は小さな雪のかけら

同じような話ですが、別の考え方もあります。

遠い未来に返済する100円は金利で雪だるま式に増えていったあとの100円です。

その雪だるまは今ならまだ小さな雪の塊です。

それがぐるぐる転がって金利がまとわりついて大きくなって未来の100円という負債になります。

ということはこの負債は今ならまだ負担が小さいということになります。返済が遠ければ遠いほど雪だるま式に増える金利は大きくなるので、例えば50年後に返済する100円は今はまだ米粒くらいの雪のひとかけらでしょう。

なるほど、そう考えれば遠い未来の負債の現在価値は小さいですね。

でも、それがなんでしょうか?

だからと言って期間の長いローンが正当化されるでしょうか?

違います。これもまやかしです。

遠い未来の100円という負債は今ならまだ小さい。それは正しい。

それは今返済すれば小さな雪の塊のうちに簡単に消し飛ばせる(返済できる)。そういう話に過ぎません。

もしくは、転がって金利がまとわりついた雪だるまが遠い未来に100円になったとして、その返済に充てるための資産を築く十分な時間があるね、という話でしかないのです。

負債だけを考えて、返済期間を長くとれば経済的に有利になる可能性があるかと言えばそれはありません。

やはり、この問題は心理的な問題でしかないのです。

インフレで変動金利も上昇

さらに考えるべき論点があります。

例えば、負債の現在価値を計算するときに何を割引率にするかという話があり、インフレ率を使うというのが一つのアイデアとして出されていました。

この場合、ローンの金利が固定金利であった場合には、世の中の物価が上がっているのに返済額は固定なので、遠い未来に返済する負債のほうが負担が小さいというロジックもあります。

これは正しいロジックです。

毎月10円返済しないといけない負債だとしても、毎月インフレが進んでいたら返済は楽になっていきます。

なぜなら、全てのモノの値段が上がっているということは自分の給料も上がっているはずだし、資産のリターンもインフレ分だけ高くなるというのが一般的な考えだからです。

インフレの影響を受けていないのは毎月の返済だけ。それなら返済は楽になる。

つまり、未来の負債の現在価値は低くなります。

しかし、不動産にしろ何のビジネスにしろ、基本的には変動金利で借りていることが多いと思います。変動金利であれば、インフレ率が高くなれば同時に金利も上がっているはずなので、返済も連動して増えているはずです。

なので、これも長い期間で借りた方が良いというロジックにはなりません。

現在価値を持って長いローンが有利とは言えない

負債の現在価値を定義して、それを持って長いローンのほうが有利の場合もある、というロジックは通らないと思います。

割引率に何を使うかという話はありますが、何を使ったとしても、どういう状況だったとしても定量的にローンの返済期間を論じるのは難しいのではないかと。

やはり、返済期間を長くとるべきかどうかは、毎月の返済が過度な負担になっていないか、長くなるほど合計返済額は金利分だけ増えてしまうけど許容できるか、そのあたりの定性的な論点になりそうな気がします。

もちろん、毎月の返済金額は手取り収入の25%以内にすべきだとか、そういう方向性での定量的な分析はあり得ると思います。

それではまた。